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■精神障害者だった労働者への退職勧奨
《不法行為の成否》
これは、入社後に精神障害等級3級を受けている旨が発覚し、退職勧奨を受け退職した社員が、その地位の確認と未払い賃金の支払いなどを求め争われた事件です。(係争中)
Xは06年にうつ病と診断され、その後は10年に精神障害等級2級、16年に精神障害等級3級の認定を受け、企業の障害者雇用枠の契約社員等として他社で勤務していましたが、20年4月頃、正社員としての雇用を望み転職を決意、運送業者であるY社に応募します。
XがY社に提出した履歴書等には、障害等級等の記載はなく、健康状態は良好であるが月1回程度の通院が必要であることは記載されていました。
Xは、8月から乗務員として採用されることになりましたが、入社直後に提出された書類から、Xが精神障害の認定を受け、そのための通院、服薬の必要があることがわかったため、Y社は同月4日に雇用の継続が難しいことを伝え、6日に手続きをし解雇しました。
これに対し、Xは解雇は無効であるとし提訴、労働契約上の地位の確認、未払い賃金等の支払い、障害者を差別した不当解雇、または違法な退職勧奨を受けたとし、その不法行為の責任として慰謝料を請求しました。
Xは、退職の意思がない状態で、事務的に「一身上の都合」を事由とした退職届を提出したと主張しましたが、前職を離職する際の手続き経験もあり、その意味するところを十分に理解していたと判断され、心裡留保があるなどは認められない。そのため、退職合意は有効であるとしました。
退職勧奨については、執拗に迫ってXに退職の意思表示を余儀なくさせるような行為であったとまではいえず、退職に関するXの自由な意思決定を阻害するものであったとは認め難いとしました。
しかし、発覚後も、Y社はXに対し通院して服薬治療を受けていることについて聴取したのみで、病状の具体的内容、程度はもちろん、業務遂行に与える影響の検討を何ら加えることなく、退職勧奨に及んでおり、障害者であるXに対して、適切な配慮を欠き、Xの人格的利益を損なうものであったとし、不法行為を認め、慰謝料の支払いを命じました。